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【渋谷らくご短観 2016年12月】

2016年の渋谷らくご大賞、おもしろい二つ目賞は春風亭昇々さん。

2016年の渋谷らくご 創作大賞は、三遊亭粋歌さん。

 

お笑いナタリー:春風亭昇々が「渋谷らくご大賞」、三遊亭粋歌が「渋谷らくご 創作大賞」受賞

 

ようやくこの会の賞がナタリーさんに記事にしてもらえるようになった。

予算がなくても落語会はここまで盛り上げることができるというのを示していきたい。

 

iPhoneImage.png

 

昇々さんは一年間、ホントにすごいパフォーマンスの連続だった。

私はいろいろやっているから、そのなかのひとつだろうくらいにしか思っていない人もいるかもしれないが、

「渋谷らくご」は私がホントに命を削ってやっていると誇れる会だし、

この2年、私の生活は渋谷らくご中心、それに米粒写経の活動、これでまわっているといっても過言ではない。

だれかドキュメントとして撮影し続けてほしいくらいである。

それくらいいろいろなことが起こっている。

 

昇々さんはNHK新人落語大賞に2年連続で出場していながら、優勝できなかった若手の落語家。

受賞された演者さんももちろん素晴らしい。

だが、ハッキリ言ってこの賞の存在って、落語ファン以外にだれが知っているんだろうか。

落語家さんは落語界でよく話題にしているし、それしか大きな賞がないから感覚がマヒしちゃっているんだろうけど、

私の感覚からいうと、お笑いの世界のコンテストであるM-1、KOC、R-1などと比べると、注目度から言っても、世間の人が知っている賞とはとてもいえない、コンテストのためのコンテストのようなものだ。

正直言って、大賞をとっても、とらなくても、そんなに世間的に差のないものだと思う(もちろん、賞の存在価値は充分にあることが前提です。絶対あったほうがいい賞です。)。

だから結果はむしろ関係ない、怪我しても大丈夫な自由な場所、

と端から見てれば思うのだが、実際に出る側から考えると、そうはいっても負けたら悔しい大会なのだろう。

演者はどんなに小さい戦いでも、勝敗がつくことに過剰に敏感だ。私だってっそうだ。

それは、スポーツのように数値化できないものであるから余計に。

勝敗がナンセンスだからこそ余計に。

数値以外のところを評価されるような、内申書と面接で落とされるような、そんな無駄な敗北感を味わってしまうもの。

 

とはいえ、「落語らしい落語」と「自分らしい落語」の選択で、前者を選択している賞に未来はない。

昨年の鯉八さんにしても、昇々さんにしても、自分らしさの追求こそが落語の進化でることを、だれよりも雄弁に語っているではないか。

「落語らしい落語」という失点のないゲームのようなものからは、幻想としての「落語はこうあるべきである」という固定観念しか見えてこない。幻想を追った時点で落語は死ぬ。落語は時代に合わせて変化(あえて進化とは言わないが)してきた芸能だからである。というか、そもそもコンテストにあるべき「理念」がまったく見えてこない会がほとんどだ。

そしてこれは、落語会としての「理念」がないからにほかならない。

 

昇々さんがコンテストで一番になれなかったことをどう思っているかわからないし、この賞の結果を受けて大賞を決めたわけでもないのだが(というか気にもとめていなかったのだが意外に演者さんは気にするものなのだ)、今年の昇々さんはだれが見たってキレッキレだった。

だから、アンチテーゼとかあてつけとかでなく、2016年の「渋谷らくご」はこの人だった。明らかに昨年よりも成長していた。志が高かった。

「置きに行く」ということをまずしない、二つ目らしいチャレンジ精神にもあふれていた。

「渋谷らくご」的には、会のコンセプトを体現する二つ目として今年もっともふさわしい人だと思った。

 

受賞理由は表彰状にしたためました。以下、全文抜粋。

 

渋谷らくご大賞2016
おもしろいう二つ目賞
春風亭昇々 殿

 

受賞演目:8月14日「千両みかん」、7月11日「初天神」、4月12日「誰にでも青春2」、8月13日「寝坊もの」

 

貴殿は、2016年の一年間、この「渋谷らくご」においてもっとも活躍目覚ましく、またおもしろい二つ目でありました。
落語を身体に入れてしゃべるだけでなく、高座では全力で落語と戯れるという狂った姿をお客様に合わせて披露するという、
常人や並の真打でさえ怖くてできないことを、二つ目にしてすでに体得していることに大きな衝撃を受けました。
また、狂気の遊び心で、落語ファンのみならず、初心者や若い人にまで届けるパフォーマンスは、この渋谷らくごのコンセプトを体現している存在です。
古典落語の斬新な演出だけでなく、創作においても連作を披露したり、常に準備を怠らないストイックな姿勢は、
一席だけとっても、また一年通しても、もっとも評価されるべき稀有な存在だと思います。
まくらから本編まで、だれでもわかる言葉で、マンガ的なキャラクタライズでコミカルに演じ、
古典や創作といった境目なく「昇々落語」を確立して多くの観客を魅了しました。
平成のポンチ絵派とも呼ぶべき落語に、大きな可能性を感じ徹底してふざけきりました。
よってここに、この一年おもしろい二つ目であったことを称え、貴殿を渋谷らくご大賞といたします。

2016年12月13日
渋谷らくごキュレーター サンキュータツオ

 

マジですごい領域にいる。もちろん、二つ目らしいムラはあるのだが、それでも大一番で、大注目の高座で、「ふざける」というのはもっとも難しい。そこに挑んでいるのはこの人くらいじゃないだろうか。普通は、すべれない高座であればあるほど、どうしてもテキストを固めたがる。そして再現できる一席を追求する。だが、それができたうえで、想像してくれるお客さんと一緒に作り上げていくのが落語の魅力でもある。となれば、お客さんに合わせてふざける力は、早晩必要となってくる能力だろう。彼ははやくもそこに挑んでいる。

前日に代演が決まった「創作らくご」のネタおろし、ひとりで一時間自由に戯れた「ひとりらくご」、古典に負けない「昇々」という個性で昇華させた「千両みかん」、創作での連作化に踏み切った「誰にでも青春2」。どれも印象深い。

渋谷らくごでプッシュしてしまったがゆえに、見えざる敵を作ってしまったら、彼に申し訳ない。なんとかしていろんな人に届けたい。

 

・スター性がある。

・落語がおもしろい。

・「自分の落語」を追求している。

この3点を評価軸にしたとき、すべてを兼ね備えた存在だった。

表現者として、どれかひとつ欠けてもいけないと思っているが(スター性のない、ふつうの人が落語家になっているパターンは山ほどある)、昇々さんは3つとも満たした存在だ。

 

 

 

三遊亭粋歌さん「プロフェッショナル」。

彼女の創作には、聴く人に喜怒哀楽といういろんな感情をもたらす「感動」があった、というのが審査員全員の意見だった。

このような才能がしっかりと評価されるべき場所、というのを創り上げることにこそ意味がある。会の理念にもぴたりとハマった存在だ。

桂三四郎さんの創作も完璧だった。おそらく、渋谷らくご以外、どこのコンテストでも優勝できるあまりにも見事な創作らくごだった。

もう少し審査は難航するかと思われたが、他ジャンルと並列化させる落語、という意味でも、去年の会話劇から物語性まで乗っけてきた粋歌さんにだれも文句はなかった。最高の一席でした。

残念ながらスケジュールの都合で出られなかった瀧川鯉八さん「長崎」、三遊亭彩大師匠「艦内の若い衆」、このエントリーが実現しいれば、またちがった結果になっていたかもしれない。

 

 

賞は難しい。傷つく人を生んでしまうから。だから出すほうも傷つきながら出さなければいけない。この人にあげたかった、この人も評価したい、そういう気持ちがどんどんあふれてしまって、どこかでケリをつけないといけない。

でも、出すことで少しでも彼ら、彼女ら、そして落語(なかでも渋谷らくご)が注目されるのであれば、それがいい、という判断で創設したものである。思ってもいなかったのだけれど、2回目ができた。いまはそういう想いだ。

 

 

「渋谷らくご、俺は出られへんの?」

笑福亭鶴瓶師匠は、私の目の前でたしかにそうおっしゃった。

2016年9月、春日太一さんが鶴瓶師匠にインタビューしたのがキッカケで、私は春日さんに連れられて、鶴瓶師匠のスジナシの公録にお邪魔していた。

鶴瓶師匠の青山円形劇場での「鶴瓶噺」に毎年通っていた。それが2000年代初頭の「六人の会」(東西落語研鑽会)で落語に挑みはじめ、最高のパフォーマンスを披露し続けた。この師匠は、単なるお笑いタレントではなく、やはり落語家だったのだ。畏敬の念しかなかった。

「青木先生」初演から数年、「わせだ寄席」にも出演していただいたこともあり、また、渋谷らくごの楽屋にも、遊びにきてくださったことがあった。メディア出演も一番多く、お笑いタレントとしても第一線、それでいて落語も最強、というまさに理想の落語家像が鶴瓶師匠であった。「鴻池の犬」や「死神」といった演目も、この師匠にかかるとこれまで見たこともない超展開が待っていて、遊び心と心の余裕があり、だれにも負けない自負のようなものまで感じられて、プロレスファンが格闘技のなかで「プロレス最強説」を唱えるように、私はお笑いファンのなかでも「落語最強説」を絶叫し続けた。その精神的支柱の中心に鶴瓶師匠がいたのだ。私が考える、日本一の理想の落語家である。

そんな師匠から、このような形で逆オファーをいただくなんて、こんなことあるだろうか。

 

「出してよ」じゃないのだ。「出してもらえないの?」のニュアンスなのだ。この一点だけとっても、この師匠が売れている理由がよくわかる。どう伝えれば相手が喜ぶのか、どう伝えたらかわいげがあるのか、どう伝えたら気持ちが伝わるのか。知り尽くした者にしかでない一言だ。

 

師匠はこのような縁を大事にしてくださる方だった。そしてだれよりも敏感に、いま出て楽しそうな場所、と「渋谷らくご」をとらえてくださったのだった。

それにこたえるべく、こちらも「お楽しみ」として名前を伏せて、渋谷らくごの主役たちを観に来た初心者に、鶴瓶師匠をぶつけるべきだと考えた。師匠を聴いてもらいたいのは、渋谷らくごのお客さんなのだ。

 

11月には骨折の報が入り、無理はしないでいただきたいなと思いながらも、それでも骨折後最初の高座に「渋谷らくご」を選んでくださった師匠にはホントに頭があがらない。

マネージャーさんからしてみたら、こんな不採算事業はないと思われるのだが、それでも最後まで快く応対してくださった。

スタッフ全員を打ち上げまでお声かけくださり、さらにご馳走してくださった。

爆笑王の夜。

渋谷らくごの舞台に鶴瓶師匠があがった際の、お客さんの歓声、そして多幸感あふれる空気、最高の高座、忘れることができない。

師匠、マネージャーさん、まことにありがとうございます。

 

立川談笑師匠、年に一度この「渋谷らくご」に出ていただいている最高の師匠だ。

パワフルで、創意に満ちていて、古典への愛と非情さ(つまり優しさ)もあって、常に高座と空間を特別なものにしてくれる。

この2年はひとりで一時間の高座をお任せしていたのだけれど、今年は三代目文蔵師匠との「ふたりらくご」。こんな贅沢な番組はない。

まるで歌うような「片棒・改」、改作にしてもあそこまでリズムカルに言葉を整理してスピーディに、そして爆笑巨編に仕上げるのだから、数百年の古典の錬磨を、ご自身で成し遂げたことになる。それくらい感動的な「片棒」なのだ。

こういう師匠のことを、落語に興味をもった人は追いかけてほしいなあ。弟子に吉笑さん、笑二さん。

追いかけるのに最高の一門じゃないか!

談笑師匠、ありがとうございます。

 

そして、安定した動員になった12月、その功労者はもちろんレギュラー出演してくださっている落語家さんたち。

彼らの奮闘があってこそ、特別ゲストが「特別」になる。

古今亭志ん八さんの「甲府い」が良かった。この人の軽妙洒脱な語り口、それでいて決して人をバカにしない品の良さ、温かい目線。技術的にも、想像するのにちょうどよいスピード感とコトバの量で、圧巻の一席だった。

1月、この志ん八さんをメインにした公演を千秋楽に仕掛ける。馬石師匠という達人の後に、この志ん八さんがどうやりきるのか、いまから楽しみで仕方がない。

志ん八さんにトリをお任せするのが今回がはじめてだ。しかしもう堂々たる高座の連続で、そんなものには頓着ないほどの方なので安心している。あとはどの演目を選んでくれるのかが楽しみだ。

 

 

2017年1月公演は、ひとまず、これまでの「渋谷らくご」の集大成。

この2年、ひとりひとりスポットをあててきた二つ目さんたちが、揃ってトリをとる。

この構想を固めたのは、2015年9月であった。ついにそれが実現する。

 

プレビューには、それぞれの演者さんのキャッチだと自分で思っている二字熟語を冠した。

「最高」玉川太福

「才能」立川吉笑

「抜群」柳家ろべえ

「天才」瀧川鯉八

「震撼」神田松之丞

「奔放」柳亭小痴楽

「創造」三遊亭粋歌(渋谷らくご創作大賞)

「名手」柳家わさび

「無双」春風亭昇々(渋谷らくご大賞)

「軽妙」古今亭志ん八

 

演者はすべてを欲しがってしまうが、ひとつの武器を研ぎ澄ますだけでも相当な時間がかかる。

今月トリをとる演者はみな、特化した武器がある。

どれも、素晴らしい味わいの武器だ。

 

昨年の1月は、柳家ろべえさんのトリ公演があった。

喜多八師匠、一之輔師匠、松之丞さん、ろべえさん、といういまから考えてもあり得ない番組なのだが、

一年後のろべえさんも聴きに来てほしい。

そして、大賞受賞者、さらには千秋楽、古今亭志ん八さんをどうぞよろしく。大注目です!

 

どうか、どうか一日でも、13日からはじまる「渋谷らくご」、足を運んでくださいませ。

心よりご来場おまち申し上げます。

 

posted by: サンキュータツオ | 渋谷らくご | 22:04 | comments(0) | trackbacks(0) |-









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