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■『現代日本の開化』 
『現代日本の開化』
 〜夏目漱石と涼宮ハルヒの憂鬱〜


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夏目漱石(1911.8)『現代日本の開化』(講談社学術文庫『私の個人主義』所収)

水曜日は、私がグッときた作品を、本、漫画、雑誌、映画、DVD、論文、問わずオススメするレビュー日です。


講談社学術文庫からは、夏目漱石の講演集が出ている。
漱石は小説だけではなく、講演の名手でもある。

夏目漱石は作家活動に入る前に、イギリスに国費留学生として留学している。
一般には、そこで神経衰弱になって帰国した、と言われている。
毎日ビスケットばかり食べ、ベンチに座って本ばかり読んでいる夏目氏を目撃し、大丈夫かなと心配した同期生の証言などもある。
漱石はイギリスでなにを見てきたか。なにを感じて心を痛めたか。

夏目漱石は、当時世界の覇権を牛耳っていた、一等国のイギリスの国力と繁栄、技術力を目の当たりにした。
それを、後進国たる母国・日本が、見習うべく、国費留学生を送り込んだ。
したがって漱石の役目は、このイギリスの産業や文化を、どう日本に持ち込むか、それを学ぶことにあった。

ところが日本の現代の開化を支配している波は西洋の潮流でその波を渡る日本人は西洋人ではないのだから、新らしい波が寄せる度に自分がその中で食客(いそうろう)をして気兼をしているような気持になる。新らしい波はとにかく、今しがたようやくの思で脱却した旧い波の特質やら真相やらも弁(わきま)えるひまのないうちにもう棄てなければならなくなってしまった。
……(中略)……
こういう開化の影響を受ける国民はどこかに空虚の念がなければなりません。またどこかに不満と不安の念を懐かねばなりません。それをあたかもこの開化が内発的ででもあるかのごとき顔をして得意でいる人のあるのは宜しくない。それはよほどハイカラです。宜しくない。虚偽でもある。軽薄でもある。
 自分はまだ煙草を吸っても碌に味さえ分からない子供のくせに、煙草を吸ってさも旨そうな風をしたら生意気でしょう。それを敢えてしなければ立ち行かない日本人は随分悲酸な国民といわなければならない。


要するに、ここで漱石が言っているのは、西洋の文化を移入して、日本の文明を開化させたとて、所詮日本人は西洋人ではない、と。
しかも、煙草の例にもあるように、それをコンプレックスや恥、と思うのではなく、さも自分でやりました、みたいな顔をしてそれをしている日本。
それがかわいくないのだ、と。むしろかわいそうだ、と。最大の皮肉で批判しているのです。

漱石がここまで危機感を募らせたのはなぜか。
西洋人、とくに英国人が成しえた産業というのは、むろん合理主義のなせるわざだったわけであるが、西洋人がなぜ合理主義を追求できたかといえば、数学・物理・思想などの学術的基盤があったからである。
しかしそれらの文化的資産は、実は「キリスト教」という「思想」、「宗教」の産物であるわけだ。
意外に思われるかもしれないが、西洋の数学というもの、特に理系の根本を司る代数学、こういったものは、「神がいったことは本当か?」ということを検証するために発展したと言っていい。
それは、キリストのいう終末はいつか、という計算を、名だたる数学者のほとんど全員がやっていることからわかる。
ダ・ヴィンチもデカルトもニュートンだって、終末の計算をしているのだ(ちなみにデカルトの計算によれば、終末は2015年)。
あれほど神を否定しそうな理系の人たちを突き動かしていたのは、なにを隠そう「宗教」だったのである。神を信じればこそ、である。

つまり、日本人は根本に「思想」というものを理解しないまま、表層の文明だけを移入している。「モノマネ」をしているだけにすぎない、というのである。
日本には古来から存在する思想があるのにもかかわらず、いままさに簡単にそれらを捨てようとしている。
このまま行くと、日本は「思想」までをも移入し、植民地化するか、あるいは中身のない、アイデンティティーを喪失する国家になってしまう、という危機感。
しかもその危機に、自分は加担する形で留学していることに気づく。しかし、ではその流れを止めろと言えるかというと、言えない自分がいる。
漱石はこうして、遠い異国で神経衰弱になってしまったのである(と思う)。

帰ってみれば、上記のように、わがもの顔で「西洋」を取り入れてしまった人たち。「恥を知れ!」と漱石は思う。

さぞ孤独だったはずなのだ。
だって、当時の日本に、この危機感を抱けた人物は、両国のことを知っていて、さらにその違いに気づける頭脳を持ちえた人しかいないわけですから。数えるほどです。
したがって漱石は、「虚偽でもある」「軽薄でもある」と語調を荒げるのだ。

私が、およそ100年経った今、この講演を読んでいただきたいと思うのは、この講演がいまなお新しい示唆に満ちたものである、ということだけではない。
もちろん、漱石が「禁煙ブーム」を予見していた!などというつもりもありません(やっぱ言えば良かったかな)。

日本は、漱石が予見したとおり、アイデンティティー喪失国家になってしまって、自信をなくしていること。
でも、「モノマネ」で食えてしまって、「自分の芸風を気づこう」という努力をしなくなってしまっていること。
じゃあ「モノマネ」でいいや!という腹すら括れていないこと。
そして、自信をなくした結果、自分の「良いところ」にも気づかず、鈍感になり、外国や人のクレームにまで縮こまっている国家になってしまっていること。

自信喪失の原因は、戦争で負け、虚勢されてしまったことが決定打になっているのは言うまでもないことなんですけど、
なにやら話しが大きくなってしまって、どうでもいいことを述べている感じになっているのですが、
せめて自分のいいところくらいは向き合おうよ、ということを言いたい。

たとえば、またアニメの話になってしまいますが、日本のアニメが、日本人の評価を受けない、あるいは変な印象で語られる、
それはまるで、背が小さいとか、足が短いとか、そういう「自分のいやなところ」にアニメがなってしまっているってことなのかな、と思ったりするわけで。

私のブログに来る人たちのなかには、ありがたいのですけれど、アニメの話になると「自分には関係ない」と読み飛ばす人が多いです。
実際にそう言われますから。

たしかに、偏見を生み出す原因もいくつかありました。しかし、作品には一級品から三級品まであるのが当たり前で、たまたま三級品を一瞬見たから、そういう印象になっているのではないですか?
「二次元のことはわからない」「興味がない」、そうやって自分を狭めているようにしか私には思えないのです。
アニメだけではなく、落語や、ひいては日本語にすら、私はそう思います。

でもそうじゃないんです。
目を向けて欲しいんです。「醜いところ」が「魅力的なところ」だということに。
いまの時代に漱石が生きていたら、絶対アニメを観ていると思うんです。脚本だって書いていると思うんです。アイマスやって救われてかも……それはわからないですけれど。

100年前の話ではありません。
漱石が語りかけてくるのは、「今」の話なんです、常に。
なぜなら、普遍的なことしか言ってないから。

以前、『草枕』を紹介しましたが、それでもまだ漱石については、たーくさん語りたいことがあるんです、私は! 専門じゃないんだけど。
(だからなんだよ?)

とにかく、まだ読んだことのない人には猛烈にオススメなのです。



posted by: サンキュータツオ | 水曜■タツオ☆レビュー■(2008年11月〜) | 23:48 | comments(3) | - |
これイイ!!ヾ(*´∀`*)ノ
http://tometomes.net/p2p/i38xxjk/
| グラサン | 2009/05/15 5:35 AM |
絶対者の存在に裏打ちされた欧州の2元論的思考の中に放り込まれた彼は、その感受性の強さゆえ孤独を感じていたのでしょうか。

一方で漱石は小説の中で日本の村社会に蔓延していた痛い1元論を批判している側面もありますし…

両方の世界で“分かってくれない”孤独と戦う(逃れる)ために浴びるようにジャムを食べていたのかなぁ…
と妄想しています。
| けんしょう | 2009/05/15 10:50 AM |
ビスケット(スコーン?)以外のメシがまずすぎて鬱になったのでは?
ゴハンとお風呂は間違いなく日本が世界最強だと思います。
じゃなくて。
偏見前提で「興味ないね」って顔をするあんちきしょうに振り向いてもらうって簡単じゃないですよね。
情熱とハードルの高さが見合わないならともかく、単純に理解が間違ってるだけだったりすると本当にやりきれない。
最近親しい人に麻雀やってみようと誘ったら「怖いから」、バンドしないかと誘ったら「自分はオシャレじゃないから」と断られました。
頑なな心をアンロックする魔法があったらいいのにと思います。

夏目漱石というと、ふつうの主婦(斉藤由貴)が、ある日とつぜん漱石になってしまう昼ドラが面白かったです。イギリスじゃなくてフランスに行きたかったとかゴネてました。あと息子の担任教師に惚れてしまい不思議な一方通行百合関係になるのが最高でした。未見でしたら是非。
| いぬ | 2009/05/16 2:52 AM |